「Illustratorでデザインはできたけど、印刷用のデータってどう作るの?」「トンボや塗り足しって何?」「作ったデータを入稿したら、印刷トラブルが起きたらどうしよう…」
Illustratorを使い始めたばかりの皆さん、このような悩みや不安を抱えていませんか?せっかく素晴らしいデザインが完成しても、印刷用データの作り方を間違えてしまうと、イメージ通りの仕上がりにならなかったり、最悪の場合は再入稿で余計なコストや時間がかかってしまったりするかもしれません。
特に、DTP(DeskTop Publishing)や印刷の知識がない方にとって、Illustratorでのデータ作成は専門用語が多く、複雑に感じられることが多いでしょう。しかし、ご安心ください。正しい知識と手順さえ押さえれば、誰でもプロ品質の印刷用データを作成できるようになります。
この記事は、そんなIllustrator初心者の方のために、印刷用データ作成の「完全ガイド」として執筆しました。データの基本設定から始まり、印刷に必須の「トンボ(トリムマーク)」や「塗り足し」の正しい設定方法、さらには印刷所に入稿する前の最終チェックポイント、そして最適な保存設定まで、つまずきやすい点を網羅して分かりやすく解説します。
この記事を最後まで読めば、あなたはもう印刷用データ作成で迷うことはありません。自信を持ってIllustratorでデザインし、理想通りの印刷物を手に入れられるようになるでしょう。さあ、一緒にプロの印刷データ作成スキルを身につけて、あなたのデザインを最高の形で世に出しましょう!
印刷用データ作成の基本|イラレで失敗しないための第一歩
Illustratorでデザインを作成する際、「Web用」と「印刷用」では求められるデータが大きく異なります。印刷用データは、仕上がりの品質を左右する重要な要素となるため、作成の最初の段階で適切な設定を行うことが不可欠です。この基本を怠ると、色味が変わったり、画像が粗くなったり、最悪の場合は印刷ができなかったりといったトラブルにつながります。ここでは、Illustratorで印刷用データを作成する上で必ず押さえておきたい基本的な設定と、その重要性について解説します。
Illustratorのバージョンと互換性
Illustratorでデータを作成する際、まず考慮すべきはバージョンです。Illustratorは定期的に新しいバージョンがリリースされており、機能やファイル形式に変化があります。印刷会社では様々なバージョンのIllustratorに対応していますが、古いバージョンで作成されたデータは新しいバージョンで開くと問題が発生したり、逆に新しいバージョンで作成されたデータは古いバージョンで開けないといった互換性の問題が生じることがあります。
例えば、最新のIllustrator 2024で作成したファイルを、印刷会社が使用しているIllustrator CS6で開こうとすると、正常に表示されなかったり、文字化けしたりするリスクがあります。
この互換性問題を避けるためには、以下の点に注意しましょう。
- 印刷会社が推奨するバージョンを確認する: 多くの印刷会社は、入稿データの推奨Illustratorバージョンをウェブサイトなどで明記しています。例えば、「Illustrator CS6〜CC 2023まで対応」といった記載です。必ず事前に確認し、そのバージョンに合わせて保存するようにしましょう。
- 古いバージョンで保存する場合: 最新のIllustratorで作業していても、入稿の際は「別名で保存」や「書き出し」をする際に、推奨される古いバージョン(例: Illustrator CS6やCC)を選択して保存します。ただし、新しいバージョンで追加された機能(例: 3D効果など)を使用している場合、古いバージョンで開くと正しく表示されない可能性があるため注意が必要です。
特に指定がない限り、可能な限り最新のバージョンで保存しつつ、念のためPDF/X形式など互換性の高い形式で併せて書き出しておくことが推奨されます。
ドキュメント設定の確認(サイズ・カラーモード)
デザインを始める前に、新規ドキュメントを作成する際のサイズとカラーモードの設定は、印刷物の品質を決定づける非常に重要なステップです。ここを間違えると、後からの修正が困難になったり、印刷物の仕上がりが大きく変わってしまったりします。
1. サイズ設定
印刷物の「仕上がりサイズ」を正確に設定することが最も重要です。例えばA4サイズのチラシであれば、幅210mm、高さ297mmと正確に入力します。
- 新規ドキュメント作成時: Illustratorを起動し、「新規作成」から「印刷」タブを選択します。そこで、あらかじめ用意されているA4やB5などのサイズを選ぶか、プルダウンメニューから「カスタム」を選択し、幅と高さをミリメートル(mm)単位で正確に入力します。
- アートボードの設定: デザインを作成するアートボードのサイズが、仕上がりサイズと一致していることを確認しましょう。後から変更することも可能ですが、最初から正しく設定する方が効率的です。
サイズが異なると、印刷時に拡大・縮小されて画質が劣化したり、デザインが切れてしまったりする原因となります。また、断裁位置のズレによる白いフチを防ぐために、後述する「塗り足し」の設定もこの段階で行っておくとスムーズです。
2. カラーモード(CMYKとRGB)
Illustratorで新規ドキュメントを作成する際、「カラーモード」の選択肢として「RGB」と「CMYK」が表示されます。印刷物を作成する場合は、必ず「CMYKカラー」を選択してください。
- CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、キープレート=ブラック): 印刷で使われるインクの三原色(と黒)で色を表現する方法です。印刷会社ではこのCMYKモードで印刷が行われます。
- RGB(レッド、グリーン、ブルー): パソコンのモニターやテレビ、スマートフォンの画面など、光の三原色で色を表現する方法です。Webサイトやデジタルコンテンツはこちらのモードで作成します。
なぜCMYKを選択する必要があるのでしょうか?RGBはCMYKよりも表現できる色の範囲が広いため、Illustratorの作業中にRGBで鮮やかだった色が、印刷時にCMYKに変換されることで、くすんだり、色味が変わってしまったりする「色転び(いろころび)」という現象が起こる可能性があります。
最初からCMYKで作成することで、画面上で見ている色と実際の印刷物の色のズレを最小限に抑えられます。万が一、作業途中でRGBモードになっていることに気づいた場合は、「ファイル」→「ドキュメントのカラーモード」→「CMYKカラー」を選択して変換できますが、その際に色味が変わってしまう可能性があるため、できるだけ新規作成時にCMYKを選択するようにしましょう。
使用する画像素材の解像度と配置
印刷物の品質を大きく左右するのが、デザイン中に配置する画像素材の解像度です。Webサイトでは低解像度の画像でも問題ありませんが、印刷物ではより高い解像度が求められます。低解像度の画像を印刷すると、写真が粗くなったり、文字がギザギザになったりして、プロフェッショナルな仕上がりからかけ離れてしまいます。
1. 解像度(DPI)の基本
解像度とは、画像を構成する点の密度を示すもので、dpi(dots per inch:1インチあたりのドット数)という単位で表されます。
- 印刷物の推奨解像度: 一般的なカラー印刷物(チラシ、ポスター、パンフレットなど)では、300dpi〜350dpiが推奨されます。写真集など、特に高精細な仕上がりを求める場合は400dpi以上が求められることもあります。
- Webサイトの推奨解像度: Webサイトで表示する画像は、通常72dpiで十分です。
デジタルカメラで撮影した写真などは高解像度であることが多いですが、インターネット上からダウンロードした画像やスマートフォンのスクリーンショットなどは低解像度である場合が多いので注意が必要です。Illustratorに画像を配置する際は、元の画像ファイルが高解像度であることを必ず確認してください。Illustrator上で画像を拡大しても、元の解像度が低いと印刷品質は向上しません。
2. 画像の配置方法(埋め込み vs リンク)
Illustratorに画像を配置する方法には、「埋め込み」と「リンク」の2種類があります。
- 画像を埋め込む: 画像データをIllustratorファイル内に完全に含める方法です。ファイルサイズは大きくなりますが、画像を別の場所に移動したり、他のPCでファイルを開いたりしても、画像が行方不明になる心配がありません。入稿データとしては非常に安全な方法です。
- 画像をリンクする: 画像データをIllustratorファイルとは別の外部ファイルとして管理し、Illustratorファイルは画像ファイルの「場所」の情報を持つだけです。ファイルサイズは軽くなりますが、入稿時にリンク元の画像ファイルを渡し忘れたり、画像ファイルの名前を変更したり移動したりすると、Illustrator上で画像が表示されなくなる「リンク切れ」が発生するリスクがあります。
印刷会社への入稿データでは、基本的にすべての画像を「埋め込む」ことを推奨します。これにより、リンク切れによるトラブルを確実に防ぐことができます。画像を配置する際、Illustratorの「ファイル」メニューから「配置」を選択し、表示されるダイアログボックスで「リンク」のチェックボックスを外して配置することで、画像を埋め込むことができます。すでにリンクで配置してしまった画像は、「ウィンドウ」メニューから「リンク」パネルを開き、画像を選択してパネルメニューから「画像を埋め込み」を選択することで埋め込みに変更できます。
この初期設定と画像管理を徹底することで、後工程でのトラブルを劇的に減らし、スムーズな印刷プロセスへとつながります。
トンボ(トリムマーク)と塗り足しの正しい設定方法
Illustratorでの印刷用データ作成において、初心者の方が最もつまずきやすいのが「トンボ(トリムマーク)」と「塗り足し」の設定です。これらは印刷物を美しく仕上げるために不可欠な要素であり、正しい設定ができていないと、意図しない白いフチが出たり、デザインが途切れてしまったりする原因となります。ここでは、これらの重要な設定について、その役割からIllustratorでの具体的な作成・配置方法までを詳しく解説します。
トンボの作成と配置
トンボ(通称:トリムマーク)は、印刷物の「仕上がりサイズ」を示す目印です。印刷工程では、デザインされたデータは通常、仕上がりサイズよりも大きな用紙に印刷され、その後、このトンボの線に沿って正確に断裁されます。トンボは、印刷物の最終的な形を決定し、多色印刷での位置合わせにも重要な役割を果たすため、「見当合わせの印」とも呼ばれます。
トンボには主に以下の2種類があります。
- 内トンボ(トリムマーク): 印刷物の仕上がりサイズ(断裁位置)を示す線です。
- 外トンボ(断裁トンボの外側にある線): 塗り足しの範囲を示す線で、内トンボから3mm外側に位置するのが一般的です。
Illustratorでトンボを作成する方法はいくつかありますが、最も確実で簡単なのは「効果」メニューから生成する方法です。
Illustratorでのトンボ作成手順
- まず、アートボードのサイズを印刷物の仕上がりサイズに正確に設定します。例えばA4であれば、幅210mm、高さ297mmです。
- 長方形ツールで、アートボードと同じサイズの長方形を描き、線と塗りは「なし」にします。これは、トンボを作成するための基準となるオブジェクトです。
- 作成した長方形を選択した状態で、上部メニューの「効果」→「トリムマーク」を選択します。
- これでアートボードの四隅にトンボが自動的に生成されます。
この方法で作成されたトンボは「アピアランス」として適用されるため、後からサイズ変更があってもアートボードサイズに合わせて自動調整されるため非常に便利です。トンボが生成されたら、それがアートボードの端と一致しているか(つまり、仕上がりサイズと一致しているか)を必ず確認しましょう。
塗り足しの設定と重要性
塗り足し(ぬりたし、またはブリード)とは、印刷物の仕上がりサイズよりも外側に、デザインの背景色や画像などを3mm程度余分に広げて配置する領域のことです。この「3mm」という数字は、多くのネット印刷サービスで推奨される標準的な数値です。
なぜ塗り足しが必要なのでしょうか?
印刷物を断裁する際、用紙は高速で機械的にカットされます。この時、どんなに精密な機械でも、紙のわずかな伸縮や断裁機の刃のわずかな誤差によって、最大で1mm程度のズレが生じる可能性があります。もしデザインが仕上がり線(内トンボ)ギリギリで終わっていると、このわずかなズレによって、デザインの端に意図しない白いフチが出てしまうことがあるのです。
塗り足しを設けておくことで、たとえ断裁が数ミリ内側にずれたとしても、デザインの背景が途切れることなく続き、白いフチが出てしまうのを防ぎ、美しく安定した仕上がりを実現できます。
Illustratorでの塗り足し設定とデザイン方法
塗り足しは、トンボのように自動生成されるものではなく、デザインする側が意識して作成する必要があります。具体的には、背景全体の色や画像、あるいは端まで伸ばしたいオブジェクトを、仕上がり線から3mm外側まで伸ばして配置します。
- ドキュメント設定で塗り足し領域を指定する: 新規ドキュメント作成時、または「ファイル」→「ドキュメント設定」から、「裁ち落とし(Bleed)」の項目で上下左右それぞれ3mmと入力します。これにより、アートボードの周囲に赤い線(塗り足しガイド)が表示されます。
- デザイン要素を赤い線まで伸ばす: 背景全体に色を敷いたり、画像を配置したりする場合は、この赤い線(塗り足しガイド)までしっかりと伸ばして配置してください。オブジェクトの端が赤い線まで届いているか、拡大して確認することが重要です。
- 重要な情報は仕上がり線から離す: 逆に、文字やロゴ、写真の顔など、断裁されては困る重要な要素は、仕上がり線(内トンボ)からさらに内側へ3〜5mm程度離した「安全領域(セーフティゾーン)」内に配置するように心がけましょう。これも断裁時のズレによって切れてしまうのを防ぐためです。
塗り足しの設定は、印刷会社によって推奨ミリ数が異なる場合がありますが、一般的には3mmが標準です。迷ったら事前に印刷会社のウェブサイトで確認するか、問い合わせてみましょう。
データ全体の拡大で塗り足しを作らない理由
初心者が陥りがちな間違いの一つに、「塗り足しを作るために、デザインデータ全体を拡大する」という方法があります。これは絶対に避けるべき方法です。
なぜでしょうか?
デザインデータ全体を拡大してしまうと、以下の問題が発生します。
- 画像解像度の劣化: 配置した画像は、拡大することで実質的な解像度が低下します。例えば、300dpiで配置した画像も、20%拡大すれば実質250dpiになり、印刷時に粗くなってしまう可能性があります。
- 線の太さや文字サイズの変動: 線幅や文字サイズもデザイン全体に合わせて拡大されてしまいます。例えば、0.25ptの細い線が、拡大によって太くなりすぎてしまったり、小さく設定した文字が読みにくくなってしまったりすることがあります。
- 仕上がりサイズの不一致: そもそも、意図した仕上がりサイズと異なるデータになってしまうため、印刷会社で正しく処理できない可能性があります。
塗り足しは、あくまで「仕上がりサイズの周囲に余分な領域を持たせる」ものであり、デザイン要素自体を拡大するものではありません。アートボードのサイズは仕上がりサイズに固定し、そのアートボードの外側にデザインを広げるというイメージで作成しましょう。
以上のトンボと塗り足しの正しい理解と設定は、印刷データのプロフェッショナルな仕上がりを左右する重要なポイントです。この基本を徹底することで、入稿時のトラブルを避け、安心して美しい印刷物を手に入れることができるでしょう。
印刷用データ書き出し(保存)前の最終確認と推奨設定
デザインの完成、トンボと塗り足しの設定が済んだら、いよいよ印刷会社へ入稿するためのデータ書き出し(保存)です。この最終工程は、これまでの努力が報われるか、あるいは全てが無駄になってしまうかを左右する重要なステップです。入稿直前でミスが発覚すると、納期遅延や追加料金発生の原因にもなりかねません。ここでは、印刷用データを書き出す前に必ずチェックすべき項目と、推奨される保存設定について詳しく解説します。
フォントのアウトライン化
Illustratorで文字を使用する際、最も重要な工程の一つが「フォントのアウトライン化」です。この作業は、文字を編集可能なテキスト情報から、図形(パスデータ)に変換することを指します。
なぜアウトライン化が必要なの?
理由はシンプルです。あなたが使用しているフォントが、入稿先の印刷会社にもインストールされているとは限りません。もし、アウトライン化せずにIllustratorデータを送ってしまうと、印刷会社の環境でデータを開いた際に、フォントが正しく表示されず、別のフォントに置き換わってしまったり(文字化け)、レイアウトが崩れてしまったりする「フォント問題」が発生します。これでは、せっかくのデザインが台無しになってしまいます。
アウトライン化することで、文字は図形として認識されるため、どんな環境でもデザイン通りの見た目を維持できます。ただし、一度アウトライン化すると、その文字を後からテキストとして編集することはできなくなるため、必ずアウトライン化前の元データ(編集用データ)を別途保存しておくようにしましょう。
Illustratorでのアウトライン化手順
- すべてのレイヤーが表示され、ロックが解除されていることを確認します。
- 選択ツール(V)で、アウトライン化したいすべてのテキストを選択します。または、「選択」メニューから「すべてを選択」を選ぶことで、アートボード上のすべてのオブジェクトを選択できます。
- 上部メニューの「書式」→「アウトラインを作成」(ショートカット:WindowsはCtrl+Shift+O、MacはCommand+Shift+O)を選択します。
- アウトライン化が完了したかどうかは、「書式」メニューの「フォント検索・置換」を開いて、ドキュメントフォントに何も表示されなければOKです。
ポイント:隠れたテキストにも注意!
稀に、アートボードの外側や、非表示になっているレイヤーにテキストオブジェクトが残っている場合があります。これらのテキストもアウトライン化しないとトラブルの原因になります。アウトライン化前に「書式」→「フォント検索・置換」でドキュメント内のフォントをすべて確認し、不要なフォントがあれば削除、必要なフォントはアウトライン化されていることを確認しましょう。
画像の埋め込みとリンク
「印刷用データ作成の基本」セクションでも触れましたが、Illustratorに配置した画像は、入稿時に「埋め込み」の状態になっているかを最終確認することが非常に重要です。
なぜ再確認が必要なの?
画像が「リンク」の状態のまま入稿すると、印刷会社側でデータを開いた際に、画像が表示されない「リンク切れ」が発生します。これは、Illustratorファイルが画像の保存場所の情報しか持っていないため、画像ファイルそのものが手元にないと参照できないためです。リンク切れのデータは印刷できません。
画像を「埋め込み」にすることで、画像データそのものがIllustratorファイル内に含まれるため、別のPCや環境に移動してもリンク切れの心配がなく、確実にデータが印刷会社に伝わります。
Illustratorでの確認と埋め込み手順
- 上部メニューの「ウィンドウ」→「リンク」を選択し、「リンクパネル」を表示します。
- リンクパネルに表示されている画像リストを確認します。画像の右側にアイコン(鎖のマーク)が表示されている場合は、まだリンク状態です。
- リンク状態の画像を選択し、リンクパネル右上のオプションメニュー(三本線)をクリックして、「画像を埋め込み」を選択します。
- すべての画像が埋め込まれていることを確認したら、パネル上の鎖マークが消えているはずです。
多数の画像を扱う場合は、この作業を忘れないようにしましょう。ファイルサイズが大きくなることがありますが、トラブル回避のためには必須の作業です。
正しい色で印刷するためのカラー設定
「画面で見た色と、印刷された色が違う…」という経験はありませんか?これは、Illustratorのカラー設定と、最終的なPDF書き出し時の設定が大きく影響します。
RGBとCMYKの再確認
前述の通り、Illustratorでの作業はCMYKカラーモードで行うのが基本です。しかし、Webからの画像素材や、RGB設定で作成されたPhotoshopデータなどをIllustratorに配置した場合、CMYKモードのドキュメントにRGBの画像が混在していることがあります。
印刷所に入稿するPDFでは、最終的にすべての色がCMYKに変換されます。意図しない色変換を防ぐためにも、以下の点を確認しましょう。
- ドキュメントのカラーモード: 「ファイル」→「ドキュメントのカラーモード」がCMYKカラーになっていることを確認します。
- カラープロファイルの一致: 印刷会社が推奨するカラープロファイルがあれば、それに合わせて設定します。(例: Japan Color 2001 Coatedなど)。「編集」→「カラー設定」で確認できますが、通常はデフォルト設定でも問題ありません。厳密な色合わせが必要な場合や、特色を使う場合は、事前に印刷会社に確認しましょう。
PDF書き出し時のカラー変換オプション
Illustratorで作成したデータをPDFとして保存する際、特に重要なのがカラー変換のオプションです。
- 「ファイル」→「別名で保存」を選択し、ファイルの種類を「Adobe PDF」にします。
- 「Adobe PDFを保存」ダイアログボックスが表示されたら、「Adobe PDFプリセット」で「[PDF/X-4:2008]」または印刷会社が推奨するプリセットを選択します。このプリセットは、印刷用の高品質なPDFを作成するための設定が事前に組み込まれています。
- 「出力」タブをクリックします。
- 「カラー変換」の項目で、「変換しない」または「出力先の設定に変換(数値を保持)」を選択し、出力先として「Japan Color 2001 Coated」など、印刷会社に合わせたプロファイルを選択します。この設定により、意図しないカラー変換を防ぎ、適切なCMYK変換が行われます。
このPDF/X形式で保存し、適切なカラー変換設定を行うことで、画面で見ていた色と印刷物の色のギャップを最小限に抑えることができます。
パッケージ機能の活用
Illustratorの「パッケージ」機能は、入稿データを準備する上で非常に便利な機能です。特に、リンク画像や特殊なフォントを多数使用している場合に、手動でのデータ収集の手間とミスを劇的に減らすことができます。
パッケージ機能とは?
パッケージ機能を使用すると、Illustratorファイル本体に加え、そのファイル内で使用されているすべてのリンク画像、使用フォント(著作権フリーのものに限る)、および関連レポート(PDFなど)を、一つのフォルダにまとめて自動で収集してくれます。
なぜパッケージ機能が推奨されるの?
- リンク切れ防止: リンク画像ファイルもまとめて収集されるため、入稿時のリンク切れを防ぐことができます。(ただし、画像の「埋め込み」がより確実です)
- フォント不足解消: 使用フォントが自動で収集されるため、印刷会社側でフォントがないことによるトラブルを回避できます。ただし、フォントのライセンスによっては配布が許可されていない場合があるため、この点には注意が必要です。基本的にはフォントのアウトライン化を優先しましょう。
- データ管理の効率化: 必要なデータがすべて一箇所にまとまるため、入稿データ管理が非常に楽になります。
Illustratorでのパッケージ手順
- Illustratorファイルを開いた状態で、上部メニューの「ファイル」→「パッケージ…」を選択します。
- 保存先フォルダを指定し、「パッケージ」ボタンをクリックします。
- 確認メッセージが表示されたら、「OK」をクリックします。
パッケージ機能は主にIllustratorデータのバックアップや共同作業での共有に役立つ機能ですが、印刷会社によってはパッケージされたデータでの入稿を推奨している場合もあります。最終的な入稿ファイル形式はPDF/X形式が基本ですが、このパッケージ機能で関連ファイルをまとめて印刷会社に送ることで、より確実な入稿につながるでしょう。
これらの最終確認と保存設定を徹底することで、あなたは自信を持って印刷会社へデータを渡し、期待通りの高品質な印刷物を手に入れることができます。
ネット印刷サービスへの入稿手順と注意点
Illustratorで作成した印刷用データが完成し、最終確認も済んだらいよいよ印刷会社への入稿です。最近では、手軽に利用できるネット印刷サービスが主流ですが、各サービスによって入稿形式や注意点が異なります。ここでは、Illustratorデータをネット印刷サービスへ入稿する際の一般的な手順と、データ不備を防ぐための最終チェック、そしてよくあるトラブルとその対策について解説します。
入稿データの最終チェックリスト
印刷データを入稿する前に、これまでの作業を振り返り、最終的なチェックを行うことが非常に重要です。印刷会社にデータが届いてから不備が見つかると、データの修正や再入稿が必要になり、納期が遅れたり追加料金が発生したりする可能性があります。入稿前に以下の項目を必ず確認しましょう。
- サイズと塗り足し:仕上がりサイズと塗り足し(通常3mm)が正しく設定されているか確認します。背景や写真が塗り足しまでしっかり伸びているか、重要な要素が仕上がり線から3〜5mm内側の安全領域に収まっているかを確認しましょう。
- カラーモード:すべてのオブジェクトがCMYKカラーモードになっているかを確認します。特に、Webから持ってきた画像やRGBで作成したオブジェクトが混在していないか注意が必要です。
- フォントのアウトライン化:使用しているすべてのテキストがアウトライン化されているかを確認します。見落としがちなのは、非表示レイヤーやアートボード外にあるテキストです。「書式」メニューの「フォント検索・置換」で、ドキュメントフォントに何も表示されない状態が理想です。
- 画像の埋め込み:配置しているすべての画像がIllustratorファイルに埋め込まれているかを確認します。「リンクパネル」を開き、リンク状態の画像がないことを確認しましょう。
- 不要なデータの削除:アートボードの外にあるオブジェクト、非表示のレイヤー、使用していないシンボルやブラシなど、印刷に不要なデータは削除してファイルサイズを最適化しましょう。
- オーバープリント設定:意図しないオーバープリント設定がされていないか確認します。特に黒のオブジェクトでオーバープリントが設定されていると、下の色が透けて見えたり、色が沈んだりする場合があります。基本的には印刷会社任せで問題ありませんが、特殊な表現をしたい場合は事前に印刷会社に相談しましょう。
- 線の太さ:細すぎる線は印刷されない、またはかすれてしまう可能性があります。印刷会社が推奨する最小線幅を確認し、それ以上の太さになっているか確認しましょう。一般的には0.25pt以上が推奨されます。
- 特色・スポットカラー:特色を使用している場合は、その設定が正しいか、分版プレビューで確認します。プロセスカラー(CMYK)と特色が混在している場合も注意が必要です。
これらの項目を一つ一つ丁寧にチェックすることで、データ不備によるトラブルのリスクを大幅に減らすことができます。可能であれば、プリントアウトして最終的な仕上がりをイメージするのも有効です。
各印刷会社ごとの入稿規定・テンプレートの確認
Illustratorで作成した印刷用データは、最終的に「PDF/X」形式で保存することが一般的です。しかし、ネット印刷サービスごとに推奨されるPDFのバージョンや、その他の詳細な入稿規定が異なる場合があります。
なぜ印刷会社の規定を確認する必要があるの?
各印刷会社は、安定した品質で印刷を行うために独自の印刷ワークフローを持っています。そのため、データ形式、カラープロファイル、トンボや塗り足しのミリ数、入稿可能なフォントの種類など、細かな規定を設けていることが多いです。これらの規定に従わないデータは、「データ不備」として再入稿を求められたり、場合によっては追加料金が発生したり、納期が遅延する原因となります。
例えば、ある印刷会社では「PDF/X-4」を推奨しているが、別の会社では「PDF/X-1a」が必須、といった違いがあります。また、特定の効果(透明機能など)の扱いに関しても、印刷会社によって対応が異なる場合があります。
確認すべきポイントとテンプレートの活用
入稿前には必ず、利用するネット印刷サービスのウェブサイトにある「入稿データ作成ガイド」「データ作成の注意点」「テンプレート」などを確認しましょう。
- 推奨ファイル形式:PDF/X-1a、PDF/X-4など、どのPDFプリセットで書き出すべきか。
- カラープロファイル:Japan Color 2001 Coatedなど、推奨されるカラープロファイルがあるか。
- 塗り足しのサイズ:3mm以外に指定があるか(例:5mm)。
- 最小線幅・最小文字サイズ:印刷可能な最小の線幅や文字サイズが指定されていないか。
- テンプレートの利用:多くのネット印刷サービスでは、Illustrator用の公式テンプレートを提供しています。このテンプレートには、仕上がりサイズ、塗り足し、安全領域、トンボなどが既に設定されており、これを利用することで、データの作り間違いを大幅に減らせます。特に初心者の方は、積極的にテンプレートを活用することをおすすめします。
特に、初めて利用する印刷会社の場合は、必ずこれらの規定を熟読し、疑問点があれば入稿前に問い合わせておくことが賢明です。事前の確認が、スムーズな印刷と高品質な仕上がりへの近道となります。
入稿後のデータ不備を防ぐために
どんなに注意してデータを作成しても、人間である以上ミスは起こりえます。しかし、入稿後のデータ不備によるトラブルは、できる限り避けたいものです。ここでは、入稿後のトラブルを最小限に抑えるための対策をご紹介します。
- プリフライト機能の活用:Illustratorには、印刷データの不備を自動でチェックしてくれる「プリフライト」機能が搭載されています(Acrobat Proの機能ですが、IllustratorからPDF書き出し時にチェックできます)。PDF書き出し時に、「出力」タブの「PDF/X準拠」の項目でエラーが表示されないか確認しましょう。また、Adobe Acrobat Proを持っている場合は、PDFファイルを開き、「ツール」→「印刷工程」→「プリフライト」で詳細なチェックを行うことができます。
- 低解像度での試し刷り:自宅やコンビニのプリンターで、実際に原寸大で一度印刷してみることをおすすめします。色味の確認は難しいですが、文字の大きさや視認性、レイアウトのバランス、誤字脱字などを最終チェックできます。
- 印刷会社からの校正確認:多くのネット印刷サービスでは、入稿後にデータチェック(簡易校正)のサービスを提供しています。これは、印刷会社側でデータに問題がないかを確認し、もし問題があれば報告してくれるサービスです。有料の場合もありますが、費用をかけてでも利用する価値は十分にあります。データチェックで指摘された箇所は、速やかに修正し、再入稿しましょう。
- データ作成ガイドの熟読:繰り返しになりますが、利用する印刷会社のデータ作成ガイドは、印刷のプロからのアドバイスが詰まった最も重要な情報源です。何か不明な点があれば、まずはガイドを確認し、それでも解決しなければ問い合わせを行いましょう。
- 早めの入稿を心がける:納期ギリギリでの入稿は、万が一データに不備があった場合の修正時間を奪ってしまいます。余裕を持って入稿することで、トラブル発生時にも冷静に対応できる時間的猶予が生まれます。
これらの対策を講じることで、入稿後の「しまった!」を未然に防ぎ、スムーズに理想の印刷物を手に入れることができるでしょう。印刷データ作成は奥が深いですが、基本を押さえ、一つ一つの工程を丁寧にこなすことで、確実に品質の高い成果物へと繋がります。
よくある質問(FAQ)
Illustratorで両面印刷などの設定はどこで行いますか?
Illustratorで両面印刷を前提としたデータを作成する場合、アートボードの管理が重要になります。通常、表面と裏面を別々のアートボードで作成するのが一般的です。新規ドキュメント作成時にアートボードの数を「2」に設定するか、既存のドキュメントに「アートボードツール」を使ってアートボードを追加できます。入稿時には、表面と裏面のデータが適切に配置されたPDFファイルとして書き出します。多くの印刷会社では、両面データは1つのPDFファイル内に複数ページとしてまとめる形式を推奨しています。詳細な設定方法は、ご利用になる印刷会社の「入稿ガイド」をご確認ください。
塗り足しは、データ全体の拡大でつくらない
はい、その通りです。塗り足しを作成する際、デザインデータ全体を拡大して塗り足し領域を確保するのは絶対に避けてください。本文でも解説した通り、全体を拡大すると、配置した画像の解像度が低下したり、文字や線の太さが変わってしまったりする問題が発生します。塗り足しは、アートボードのサイズは仕上がりサイズのままで、その周囲(通常3mm)に背景要素を伸ばして作成するのが正しい方法です。ドキュメント設定の「裁ち落とし(Bleed)」機能を使って、赤い塗り足しガイドを表示させ、それに合わせてデザイン要素を配置するようにしましょう。
イラレで塗り足しを作る方法と注意点
Illustratorで塗り足しを作る方法は、新規ドキュメント作成時、または「ファイル」→「ドキュメント設定」から「裁ち落とし(Bleed)」の項目に上下左右それぞれ3mmと入力するのが最も確実です。これにより、アートボードの周囲に赤いガイドラインが表示されます。デザインする際は、背景色や背景画像、または端まで伸ばしたいオブジェクトをこの赤いガイドラインまで伸ばしてください。
注意点としては、この塗り足し領域に、断裁されては困る重要な文字やロゴなどを配置しないことです。断裁時のズレを考慮し、仕上がり線からさらに3〜5mm程度内側に「安全領域」を設けて、そこに重要な要素を配置するようにしましょう。
Illustratorから正しい色で印刷するための「プリント」設定の方法
Illustratorから直接「プリント」するのではなく、印刷会社へ入稿する場合は、PDF/X形式での「書き出し(保存)」が基本です。「プリント」設定は、ご自身のプリンターで試し刷りをする際に利用することが多いです。正しい色で印刷するためのポイントは、本文の「正しい色で印刷するためのカラー設定」でも触れた通り、ドキュメントのカラーモードをCMYKにし、PDF書き出し時に「PDF/X-4:2008」などの印刷用プリセットを選択し、「出力」タブで適切なカラー変換オプション(例:「変換しない」または「出力先の設定に変換(数値を保持)」と、Japan Color 2001 Coatedなどのプロファイル)を選ぶことです。ご自身のプリンターで試し刷りをする場合は、「プリント」ダイアログの「カラー管理」タブで「ドキュメント:CMYK」を選択し、プリンター側でカラー補正を行わない設定にすると、よりデータに近い色で出力されます。
まとめ
この記事では、Illustrator初心者の方がプロ品質の印刷用データを作成するために不可欠なポイントを網羅的に解説しました。
重要な要点を改めて振り返りましょう。
- 基本設定の徹底:ドキュメントサイズ、CMYKカラーモード、高解像度画像の配置と埋め込みがトラブル回避の第一歩です。
- トンボと塗り足しの理解:断裁ズレによる白いフチを防ぐため、正しいトンボの作成と3mmの塗り足し設定は必須です。データ全体の拡大で塗り足しを作ってはいけません。
- 最終確認と推奨設定:フォントのアウトライン化、画像の埋め込み、適切なカラー設定(PDF/X形式での保存)で、入稿データを万全にしましょう。
- 入稿前のチェック:印刷会社ごとの入稿規定・テンプレートを必ず確認し、入稿前の最終チェックリストを徹底することが、スムーズな印刷への鍵です。
Illustratorでの印刷データ作成は、一見複雑に思えるかもしれません。しかし、今回解説した基本的な知識と手順を一つ一つ丁寧に行うことで、誰でも安心して美しい印刷物を生み出すことができます。
これで、あなたはもう印刷データ作成で迷うことはありません。自信を持ってあなたのデザインを印刷会社に入稿し、イメージ通りの素晴らしい印刷物を手に入れてください。さあ、学んだ知識を活かして、あなたのクリエイティブを現実のものにしましょう!
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